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当事務所の無罪事例【一審無罪】

詐欺事件

事案の概要
被告人が、被害者に対し、不動産の購入をもちかけ、取引の当日、ホテルのロビーで受け取った現金を持ち去るつもりでいるのに、「一時的に預かる、後で事務所にいって取引をしよう」などと述べて騙し、スーツケースに入った1億5000万円をだまし取ったとの疑いをかけられた事案。検察官は予備的訴因(上記主張が認められなかった場合の予備的な主張)として、被告人が「スーツケースを持ち去るつもりであるのに一時的に預かる旨だましてスーツケースを持ち去った」との主張を追加した。
  
争点
被告人は、被害者とされる人物らと取引をし、現金の入ったスーツケースを受領したことは認めていた。もっとも、被害者とされる人物らがいう、「不動産取引」なるものは存在せず、実際には人民元と日本円を両替する取引が行われたに過ぎない、取引の一貫として日本円を受け取った後、人民元を送金する際にトラブルが起き、結局送金ができなかったところ、その日本円を取り戻すために、被害者らが架空の「不動産取引」なるものをでっちあげたと主張した。また被告人は、スーツケース内の現金を「一時的に預かる」などと述べたこともなく、あくまでスーツケース内の現金は両替取引の一貫として受け取ったものであると主張した。

 
 審理の内容
 被害者と名乗る人物らの他、被害者らに1億5000万円を不動産購入の原資として貸し付けたとされる人物ら5名が出廷し、証言した。弁護人は、これらの証人に対して反対尋問を行った。下記のとおり、被告人のパソコンから発見されたウィチャットのメッセージに関する証拠も取調べられた。
 第一回公判が開始される前の「公判前整理手続」では、被害者と名乗る人物らと、検察官が、公判に先立って行う打ち合わせである「証人テスト」の際に作成されたメモが、裁判所の命令により、弁護人に開示された。
 
弁護活動のポイント
 被害者と名乗る人物らに対する反対尋問で、弁護人は、不動産取引だとしたら当然行っているような準備や調査を全く行っていない事実を指摘し、「不動産の購入を被告人からすすめられた」との証言が虚偽であることを示そうとした。また、「スーツケースを一時的に預かる」と被告人に言われたとの証言が虚偽であることも示そうとした。
 被告人のパソコンを弁護人が調査したところ、被害者と名乗る人物らとの間でなされたメッセージのやり取りが発見され、そこには不動産取引ではなく、人民元と日本円の両替取引であることをうかがわせるメッセージも残されていた。検察官は、このメッセージが偽造されたものである可能性があると主張したため、弁護人が、パソコンを調査しその画面をスクリーンショットした経緯等を、証人として証言した。

判決日
 令和5年11月17日

判決の内容
被告人は無罪。
被害者とされる人物らの証言について「被告人との間で●●(人名)を名義人とする不動産売買契約が予定されており、本件スーツケースに在中していた1億5000万円がその購入代金であったことや、本件スーツケースを●●(人名)に一時的に預けた理由として述べる点については不自然・不合理というほかなく、これらについてはおよそ信用できない」とした。
 また上記ウィーチャットの証拠に関し「被告人が、第三者の依頼を受け、●●(人名)との間での両替取引に供するものとして1億5000万円が入った本件スーツケースの交付を受けた可能性があるという限度では、被告人の公判供述は排斥できない」とした。
 予備的訴因についても「本件スーツケースを一時的に預かる旨の欺罔行為をしたことや、これに基づき●●(人名)が錯誤に陥ったこと、被告人の故意があったことには合理的な疑いがある」と述べた。


その他備考
検察官は控訴せず、第一審にて確定した。